遺言書の作成
遺言書の作り方
遺言書がないと、相続人全員で遺産をどう分けるかを決めた「遺産分割協議書」を作る必要があります。
この遺産分割協議書がないと、銀行口座の解約や、相続不動産の名義変更・売却などの手続きができないのです。
遺産の内容が平等に、簡単に分けることができるものなら良いのですが、そうでない場合、子供たち兄弟間で揉めてしまい、なかなか遺産分割協議がまとまらず、相続財産を利用することができなくなってしまいます。一旦揉めてしまうと、その後何年にも渡って争いが続くことも珍しいことではありません。
しかし、たとえ遺言書の内容に不満があって子供たちの揉め事があったとしても、有効な遺言書であれば「手続き」は進めることができるのです。
とは言え、できることなら子供たちの揉め事が起きないように、遺された家族全員が納得するような遺言書を作る事ができればいう事はありませんよね。
このような効力を持つ遺言書ですが、一口に遺言書と言っても、複数の制度があるのをご存知でしょうか?
一般的には自分一人で作る自筆証書遺言のことかもしれませんね。
最もポピュラーで簡単に作ることができますし、変更も自由です。最後の日付のものが有効になります。
しかし作り方にもいくつか気をつけなければならない点があります。
例えば、
- ・どこにあるどんな資産なのかを明確にする。
- ・誰に相続、遺贈するのかを明確にする
- ・手書きで署名や日付を記入し押印する
- ・あいまいな表現にならないように、正しい言葉で断定する、など。
ただ単純に「三丁目の不動産は娘の花子に」など、あいまいな表現で「何を」、「誰に」、「どうする」が特定できないものは無効になってしまい、利用出来ない恐れがあります。
そして、遺言書の作成に必須の要件ではありませんが、「付言事項」で親・夫としての想いを付け加えてください。
仮に相続内容が不平等で全員が納得できる内容でなかったとしても、遺言書を作ったあなたの想いがみんなに伝われば、争いが起きることは劇的に少なくなるでしょう。
<4つの遺言制度>
遺言には自筆証書遺言と公正証書遺言という二つの書き方があります。さらに自筆証書遺言は保管の仕方によって3つの制度に分かれます。
自筆証書遺言はその名の通り自分で書く遺言書、公正証書遺言は公証人という法律のプロに遺言書を作ってもらう方法です。
但しこの4つの遺言制度ですが、いずれを利用するにしても、できれば多少お金はかかりますが、相続のことが良く分かっている、専門家のサポートは受けた方が安全です。
相続の問題はいくつかの問題が絡み合っていることが少なくありません。多方面からの検討を行い、最善の方法を考える必要があります。
一部分の問題解決のために遺言を書いてしまうと、あなたが気づいていなかった別の問題が発生してしまうという事も少なくありません。
遺される子供たちのことを想い、せっかく考え抜いて作った遺言書が、あなたの意思とはかけ離れた結果を招いてしまうかもしれないのです。
理想的には、
- ・あなたが音頭を取り、
・専門家のサポートのもと、
・あなたの死後のことを家族全員で話し合う機会を設け、
・そこで形成された合意に沿って、
遺言書を作成するのが良いでしょう。
各遺言制度のメリット・デメリットは「遺言制度の違いと費用」に一覧としてまとめておりますので参考になさってください。
それでは以下に各遺言書の書き方や注意点、費用、制度の内容についてご紹介します。
(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言の最大の特徴は、いつでも好きな時に作成でき、変更も自由にできるという点です。最新の日付のある遺言書が有効になります。
また保管は自分で行います。内容や作成したという事も秘密にすることができますので、誰にも内容を知られることはありません。
もちろん費用も掛かりませんので思い立った特に取り掛かることができます。
しかし内容をきちんと作成しないと、あやふやな表現や要件を備えていないなどで、遺言書の効力そのものが無効となる恐れもあります。
たぶんあなたが想像している以上に、望まない方に判断されてしまうと思った方が良いと思います。
実際、内容の不備でその後の遺産分割や不動産売却などが滞り、大変な思いをされた方も少なくありません。
気軽に作成できる自筆証書遺言ではありますが、作成する際には専門家のサポート(数万円~15万円程度)を受けて作成した方が安心です。
また、裁判所による「検認」(下記※)という行程を踏む必要があり、ここで1~2か月時間がかかる場合もあります。
相続の各種手続きに期限がある中、この「検認」が必要という事は大きなデメリットではないかと感じます。
自筆証書遺言を作成する際に最低限必要な注意事項は以下の通りです。
- ・遺言書作成時に意思能力があること(認知症などになっていないこと)。
- ・自書による日付、署名と押印があること。複数のページがある場合は各ページに署名と押印が必要です。
- ・署名は遺言者一人のみ。夫婦連名の遺言書は無効です。
- ・修正する場合は二重線で消したうえ押印をし、正しい文字を書く。何文字訂正したかを明記する。
- ・遺言の趣旨が理解可能であること。あやふやな表現を避けるため、文章の最後は「相続させる」や「遺贈する」など、断定する表現が好ましい。
注意点:自由に書けるといっても、守らなければならない厳格な要件があり、不足すると無効になる。
費用:無料。但し専門家のサポートを受ける場合は数万~15万円程度。
裁判所の検認:必要
※検認とは・・・裁判所が遺言書の形式を満たしているかどうかの確認を行う事。内容の確認と変造防止のために行われる。また裁判所にて相続人からの聞き取りなども行われる。但し、検認によって遺言書が有効か無効かを判断するわけではないので、相続人からすると必要な工程か?と思ってしまうことも。
(2)自筆証書遺言書保管制度
作成した自筆証書遺言書を、不動産や会社登記を取り扱う法務局に保管(画像データ化と原本の保管)しておく制度です。数千円程度の手数料で扱ってくれますので手軽です。
遺言書の要件の不備も指摘してくれますので、安心感はあります。しかし遺言の内容まではチェックしませんので、内容に不備があれば無効となってしまう恐れはあります。
この制度を利用して遺言書を法務局に保管しておくと、あなたの死後、死亡届が役所に出されると法務局にデータが渡り、予め指定されていた相続人に遺言書があることを通知してくれます。
紛失や破棄される心配がなくなるので安心です。
ただし、難点は申請は本人が法務局に出向く必要があることです。ご家族などに連れてきてもえらえれば良いですが、外出することもままならない状態では利用することができません。
とはいえ、裁判所の「検認」も必要がなく、自筆証書遺言のデメリットを補う良いシステムだと思います。
注意点:自筆証書遺言なので(1)同様の約束事がありますが、要件の不備は指摘してもらえる。
費用:遺言書の保管 3,900円、遺言書の発行 1,400円、その他保管証明、遺言書閲覧など有。
裁判所の検認:不要
(3)秘密証書遺言
自作した遺言書を封筒に入れて封印したものを、公証人及び二人の証人に「存在のみ」を認めてもらう方法です。
ただ、この方法は内容の有効性については一切の補償がされない点や、家庭裁判所の検認が必要な点、自らで保管しなくてはいけない点がデメリットです。
制度としてはありますが、実際はほとんど利用されていないようです。
注意点:自筆証書遺言なので(1)同様の約束事がある。利用するメリットが感じられない。
費用:公証人、証人(2人)の手数料など 数万円。
裁判所の検認:必要
(4)公正証書遺言
いちばん費用が掛かりますが、最も安心できる遺言制度です。
法律のプロである公証人が遺言の法的有効性をチェックし、作成した原本を公証役場に保管するものをいいます。
作成された遺言書を本人が持ちますが、紛失などみつからない場合は公証役場に請求することにより、写しを発行してもらうことができます。
遺言そのものが無効にならないことや紛失・破棄・改ざんなどの危険がないといったメリットがあります。
また、検認も不要なのですぐに相続の手続きを開始することができます。
作り方としてはまず利用者が草案を作り、その内容を基に公証人が正式な遺言書を作成してくれます。
入院や寝たきりで外出ができなくても公証人が出張してくれますので、ほとんどの場面で利用できます。
但し、遺言書を作成してくれるといっても、手取り足取り手伝ってくれるわけではありません。
ある程度草案をしっかりしたものにしないと時間ばかりかかるといったことになりかねませんので、やはり草案作りも司法書士や行政書士などの専門家のサポートを受けた方が安心です。
これら専門家の報酬や、公証人の手数料、証人(2人)の手数料など、費用は掛かりますが、ご自分が亡くなった後の不安を無くすという意味では利用するメリットは大きいと思います。
資産の額や相続人の人数によっても違いますが、10~30万円程度で利用できます(弁護士に依頼する場合はもう少し割高)ので、必要経費と割り切って利用されるのがよろしいかと思います。
注意点:遺言書の作文はしてくれますが、草案はきちんと自分で用意する必要がある。専門家のサポーも必要。
費用:資産内容などにより変動 10~30万円程度
裁判所の検認:不要
【遺言書作成のポイント】
- 1.家族みんなが元気で良い関係のうちに作成する
- 2.財産・負債を全て洗い出す
- 3.相続人の状況を考慮して配分を考える。理想的には家族会議を開催して全員の合意を形成する
- 4.財産の配分割合とその理由を書く(理由は付言事項に書くことができる)
- 5.なるべく遺留分を侵害しない様にする。侵害する場合は資金の手当てをしておく
- 6.遺言執行者と執行者の報酬を書いておく
- 7.お墓を引き継ぐ人を決めておく
ネットや書籍を見れば書き方は書いてあります。
しかしその遺言書が法的に有効な書類として認められるかどうかは別の問題です。
特に自筆証書遺言の場合はトラブル発生の基になりかねません。
遺言書の作成は相続に強い専門家の支援を受けて作成されることをお勧めします。